【15年前の冬~The first move】

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.  避難所生活に於ける様々な問題点の一番厄介者は人間関係だった。  窮屈で不便な生活がストレスになり、そこへ人間関係に気を使いストレスに拍車をかける。  皆が被災者意識が高い中、ストレスの矛先は人を攻める言葉や態度に変わる。  自ら考え、工夫し、乗り切ろうとする思考を奪っていく。  天災なのだ。  誰が悪い訳ではない。  避難所があり衣食住は確保できる。  それだけで生きては行ける。  それを、有り難いと言う意識がいつしか失われ、人は我が儘を口にする。  誰彼に依存するのではなく、自ら切り開く考えや、行動が必要だから、元井や渡部は率先して避難所でみんなを元気づけ、嫌われ役をかってでていた。 「しかし、あのオッサンは腹が立つ」  渡部が炊き出し用の鍋を掻き回しながら独り言のように言った。 「あの人はいつもあの調子で?」  自衛隊員の一人が渡部に聞き返す。 「せやな、どうしようもないオッサンやで、星やんが居らんかったらイテまうんやけどな、アハハ」 「ホシやんって?」 「あぁ、ここの避難所を影で支えてくれてる人や、星野言うまだ若い青年で、まぁ頭がキレるキレる、喧嘩も強いしな」  渡部は得意気に説明した。 「なんちゅうても、人情味があるわな、自分の事はそっちのけで、ワシ等の被災者の事ばかり考えてくれる人や、自分も被災者やのにな、大したもんやで」  元井も渡部と同じように、得意気に話した。 .
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