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妻、亜希子の実家に着いた剛士は美希の祭壇に手を合わせた。
ゆっくり目を開けて、遺影を見上げる剛士。
美希の屈託のない笑顔が涙を誘う。
溢れ出す涙と同時に、肩が小刻みに振るえると、呼吸がバランスを崩し始める。
美希との思い出が走馬灯のように駆け抜けて行く。
そして剛士はしゃくり上げた。
「……あなた」
亜希子が白いタオルを剛士に差し出した。
剛士の背中にそっと手を預けると、ゆっくりとさすり始める。
「……もう、避難所へは戻らないの?」
剛士の背中に問い掛ける亜希子。
「明日戻る」
鼻を啜りながら、タオルで拭う剛士。
時折、咳き込んでは呼吸のバランスを戻す。
「……あたしの事は」
「明後日から、仕事が海外で……、だから顔だけ出して来る」
沈黙が静寂を運ぶ。
「……いつ戻るの?」
「恐らく、2ヶ月はかかる」
「……、仕事変えて欲しい、独りぼっちは耐えられないから」
「……」
剛士は亜希子の寂しさを理解していた。
一年の大半を北朝鮮で過ごしていた剛士。
今までは亜希子の寂しさを美希が誤魔化してくれていた。
その美希が側に居ない今、亜希子は寂しさに潰されそうになっていた。
「考えてみるから、少し時間をくれないか?」
剛士の言葉にそっと頷く亜希子。
剛士は亜希子の肩を抱き寄せた。
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