疫病

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「さ、この村ともお別れだ」  馬車に乗り、窓の外を眺める。おじさん一人が村の中心に残り、作業を行っているのが見えた。  この世界、この国では、滅びた小さな村は自然に還すのが慣わしなのだそうだ。今回はおじさんが村を魔術で焼き尽くすらしい。  魔術と魔法。この違いもまた、学ばなければならないだろうな。 「……あの炎で、あの人達も燃えちゃうんだよね」 「そうだよ。一つの歴史が終わる瞬間だから、目に焼き付けておきなさい。君は運が悪かったけど、同時に良かった」 「……難しいや」  僕の目の前で炎が竜巻のように村を飲み込んだ。跡には、白色の広場だけが遺されていて。  この身体の故郷は、消えた。  涙一つ、浮かんで来ないのは、僕がこの世界の人間ではないからなのか、はたまた別の理由なのか、分からない。  ただ呆然とその光景を眺めた。 「行こう」 「……うん」  馬車の連隊が動き出す。馬車に揺られながら、先行きの不透明な自分の未来を思って目を閉じる。  僕は死んだ。だけど、今此処で生きている。夢じゃない。  何が起きたか知らないが、僕を此処へ連れてきた者、この身体の本当の持ち主、引き取ってくれたドクター。  関わるすべてに感謝をして。  新しい人生を歩もう。  そして今度こそ。 「死にたくない」 .
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