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「金に困ってはいないだろう?」
「今日は記念日なんだよ。特別な何かが欲しいの、僕は」
もう五十を過ぎたというのに、見た目は三十前半な親父。患者の生き血を吸ってるんじゃないかと専らの噂だ。噂だがな。違うし。
しかしながらこの親父見た目の若々しさに反して、中身は老獪な爺さんみたいな人なのだ。
あの日、僕が掲げた平穏無事。親父はそんな僕の上を行く、何か人生を悟ったような(ここ重要)人だったのである。
「……晩御飯、何処か食べにでも行くかい?」
「中心街のクロヴィス。絶対な、絶対だからな!」
「あそこ高いんだけど……まあ、今日も助手頑張ってくれたら」
「よぅし、任せろ親父。普段通りやりゃいいってことだしな」
「確かにそうだね」
こうして息子の我が儘も聞いてくれているし、別に冷めてるって訳でもないんだが。
志も高いしな。……その所為で酷い目に遭い続けていることは、今だけ忘れよう。
うん、そうしよう。ぶるぶる。
十五年の積み重ねは、大きい。今の僕には親父に刃向かう勇気が失われている。怖いんだもの。
しかし、親父のおかげで色々と重要なことが判明したのも事実。
犠牲は僕の反抗心だが、それに比べれば軽いものだ。
「さて、今日も何事もなく一日を過ごせますように、と」
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