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2011年―
白いカーテンの隙間から涼しい風が吹いてくる。岩崎はネットゲーム会社ソフト開発部の自分の机の上に上半身を預けるように眠っていた。
目の前にあるパソコンの画面には小学生が描いたような簡単な人の絵らしきものが動いている。
「ロック、ロック起きて」
岩崎は夢を見ていた。殆ど毎日といっていいほど彼女が出てきた。もう決して戻ることのできない過去の夢だった。
「私たち別れましょう」
さっぱりとした。爽快ささえ見せる笑顔で彼女は言った。僕たちはもう付き合ってから6年が経とうとしていた。
僕は2つに割れたメロンパンの片方を彼女に向かって突き出したまま固まっていた。
「どうしたの?いきなり……僕は何か君の気にさわるようなことをしたかい?」
「あなた今、メロンパンを2つに割った時、大きさを確かめて大きい方を私によこしたでしょ?」
僕は2つのメロンパンを見比べた。確かに無意識に2つを見比べて大きい方を渡そうとしていた。
「君は小さい方がよかったのかい?それなら」と小さい方のメロンパンを渡そうとすると彼女はそれをやや乱暴に受け取り、僕を見たまま適当に2つに割ってよこした。
「あたし達は付き合ってもう6年になるのよ。あなたが気を使ってくれるのはわかるけど」
そういう彼女に僕は理不尽だと思った。なにも僕は彼女だからそうしたわけでもない。昔から誰に対してもそうなのだ。自分では相手に対して気を使ってるつもりはないが、気がつくとそうしているのだ。
「そんなこと……僕はいったいどうすればよかったんだい?」
「私にもわからない 。これはキッカケに過ぎないんだと思うんだよね。小学生の頃の算数のテストで割り算を解いたら余りが出た……みたいな。何度確め算をしても合ってるんだけどスッキリしない感じ。わかる?」
彼女はそのまま家を出ていった。
そして二度と戻ることはなかった。
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