家出

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孤独な夜と、雨を凌ぐ為に着いてきたアケミの部屋は、その日から私とアケミの部屋になった。 アケミの明るくて世話好きで、少し強引な所が私にはとても救いだった。 ピンクと黒とフリルと水玉。 アケミの部屋を文字にしたらそんな感じ。 私の憧れた女の子の部屋とはほど遠かったが、私が17年間過ごしてきた自分の部屋より、ずっと自分らしい居場所だと思った。 年頃の男兄弟の部屋は、殺伐として汗くさい。 私とはまるで正反対に男らしかった純は豪快そのもので、部活帰りのジャージが、純の形を模ったまま床に寝転んでいたものだ。 この部屋には男を感じるものがない。 あるのは鏡に写った私の姿だけだった。 『そのなよなよした心を入れ替えろ!』 女らしい私を嫌って、父は剣道部か野球部しか選択させなかった。 田舎の中学では、学生が少なく、必ず全員どこかの部活に所属しなければならなかった。 父親が男らしい部活に入部させたいのはわかっていたので、殴られるのが怖かった私は『サッカー部希望』とかかれた紙を父親に見せた。 先手を打ったつもりだった。 『このやろう!まだ浮ついた考え残しくさって!』 父はわかっていたのだ。 私がサッカー部ならば男子しかいない部活でありながら、髪の毛を伸ばしていられるという事に。 髪が長かったわけじゃない。 本当は肩まで伸ばしたい髪を、男の子と見える精一杯の長さまでしか伸ばしていない。 本当はスポーツじゃなく、女の子と同等でいられる文系の部活に入りたかった。 男の子でもたくさんいるのに、私には許されない。 だからサッカー部と書いたのに…。 私の選択肢は、坊主頭が義務づけられた部活だけだった。
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