家出

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私はせめて人目に顔が出なくていいようにと、剣道部を選択した。 男だけの野球部にくらべたら、数人ながらも女子がいる剣道部の方がマシでもあった。 対戦するのはもちろん男。 私の中からいなくなればいい男。 私は中学三年になる頃には、あの父親でさえ試合に応援にくるほど強くなっていた。 だから、父親が漁師として中学卒業後働くように言った時も、『高校で剣道をやりたい!』と必死に説得することができた。 父からすれば、なよなよした細い身体だった三年前の私より、坊主頭で筋肉質になった私に少し安心していたのかもしれない。 少し大人になって、人前では、偽りの自分だとしても男らしく振る舞う方が、父の監視から逃れられることも学んだ。 私はこの姿を借りて、家出するその日まで過ごす事を自分に課せた。 中学生には家出しても食べていけない。 『高校卒業までにお金を貯めて、家出しようと思う。』 純にだけはなんでも話した。 『俺もむさ苦しい兄貴の涼より、美人の姉貴が欲しかったのよ。頼むぜ、涼(笑)』 私は家出するまでに髪を伸ばすようなそぶりは一切できなかった。 女らしい物を何一つ求めなかった。 だから、アケミの部屋の鏡には、筋肉質な坊主頭の私しか写るはずなかったのだ。
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