1人が本棚に入れています
本棚に追加
私はせめて人目に顔が出なくていいようにと、剣道部を選択した。
男だけの野球部にくらべたら、数人ながらも女子がいる剣道部の方がマシでもあった。
対戦するのはもちろん男。
私の中からいなくなればいい男。
私は中学三年になる頃には、あの父親でさえ試合に応援にくるほど強くなっていた。
だから、父親が漁師として中学卒業後働くように言った時も、『高校で剣道をやりたい!』と必死に説得することができた。
父からすれば、なよなよした細い身体だった三年前の私より、坊主頭で筋肉質になった私に少し安心していたのかもしれない。
少し大人になって、人前では、偽りの自分だとしても男らしく振る舞う方が、父の監視から逃れられることも学んだ。
私はこの姿を借りて、家出するその日まで過ごす事を自分に課せた。
中学生には家出しても食べていけない。
『高校卒業までにお金を貯めて、家出しようと思う。』
純にだけはなんでも話した。
『俺もむさ苦しい兄貴の涼より、美人の姉貴が欲しかったのよ。頼むぜ、涼(笑)』
私は家出するまでに髪を伸ばすようなそぶりは一切できなかった。
女らしい物を何一つ求めなかった。
だから、アケミの部屋の鏡には、筋肉質な坊主頭の私しか写るはずなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!