故郷

6/7
前へ
/21ページ
次へ
エンジン音が消えて静まり返るはずの庭に、カラカラと下駄のような乾いた足音がすると、目の前の引き戸から白髪頭の女性が出てきた。 『お帰りなさい…涼…あぁ……』 私を抱きしめたその女性は、まぎれもなく私の母の顔をしていた。 抱きしめて今は顔が見えないが、体は以前より痩せて小さくなった。 一つに結っていた黒髪はなく、ショートカットの白髪をした女性を、ずっと会いたいと思っていた母親の姿と重ねることができず、帰郷するのに年月をかけすぎた事を感じさせた。 それでも微かに匂う母の匂い。 海風を嫌って香水をしなければよかったと後悔した。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加