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エンジン音が消えて静まり返るはずの庭に、カラカラと下駄のような乾いた足音がすると、目の前の引き戸から白髪頭の女性が出てきた。
『お帰りなさい…涼…あぁ……』
私を抱きしめたその女性は、まぎれもなく私の母の顔をしていた。
抱きしめて今は顔が見えないが、体は以前より痩せて小さくなった。
一つに結っていた黒髪はなく、ショートカットの白髪をした女性を、ずっと会いたいと思っていた母親の姿と重ねることができず、帰郷するのに年月をかけすぎた事を感じさせた。
それでも微かに匂う母の匂い。
海風を嫌って香水をしなければよかったと後悔した。
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