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彼の髪を撫でた後、覚えているのはキッチンに向かったことだけ。
もうすっかり埃を被ったその箱を手に彼の枕元へ座り、その箱を開けた。
その中にはジンの命を奪った粉がある。
適当なスパイスのラベルを張り付けた茶色い遮光瓶。
致死量にはまだ充分すぎる粉が入っているから…
「私は地獄ね」
それでもジンの側で死ねるなんて、自分には幸せすぎる。
愛してるわ。
そう呟くと、ジンの手を握った。
薬瓶に口を付け全ての粉を飲み込む為に傾けた。
そして彼女は泣き崩れていた。
彼女の口の中へ飛び込んできたのは粉ではなかった。
粉は捨てられてしまったのだろう。
瓶は綺麗に洗われていた。
代わりに彼女の口に飛び込んできた何か。
小さく輪ゴムで筒状に丸められた、たった一枚の紙。
国境線を越えてく為のチケットだった。
誰より憎くて
誰より愛しい
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