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幸せに死ねるんだと思う
彼女に望まれるがままに、彼女の前で
これだけの幸福を与えられた代償が、こんな命と言うのなら、喜んで差し出そう。
「ジン、ご飯できたから食べましょ」
キッチンの扉から頭をヒョッコリ覗かせ、手招くメアリは柔らかな笑顔を向けた。
「今日も、豪華だな」
二人きりの食事にしては些か豪華すぎると言える品々が並ぶようになったのは、丁度あの日からだったように思う。
俺がメアリの前で倒れてしまったあの日。
「ジンはね、栄養偏りすぎなのよ。まともな物を食べさせてあげられる時に食べさせなきゃ」
交わす言葉はどれも、優しさしか返って来なかった。
食わせられる時に…か
メアリはここの所ずっと、定時に仕事を切り上げているだろう事には気付いていた。
それも、凝った食事を作る為だけに。
もしかしたら、少しだけ許されたのだろうか…と
「どうしたの?冷めない内に食べちゃって」
「そうだな」
促されるままナイフとフォークを持ち、名前も知らない料理に手を伸ばした時、新たな不自由に気づく
明らかにナイフが震えていた。思うように切り分ける事すらできなくなってる。
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