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野呂健二は三十一歳になったばかりの独身サラリーマンである。都内のマンションで一人暮らしをしていて自由気ままに独身貴族を楽しんでいる。
半年前に彼女と別れてその直後はショックでしばらく沈んだ気持ちになっていた。しかし会社の同期入社で同じ部署の友人山田恒一に慰められて二週間程度で元気を取り戻している。もっとも今でもどこかで引きずっているようなところがあるのだが…。
健二は身長174センチで決して高い方ではないが目鼻立ちが整い体型もスマートなので割とモテる方であった。
そのため彼女との破局の後もちょくちょく女性と出会いがあった。つまり健二は女性に不自由なく生きていた。
それに比べ友人の山田恒一は健二同様に三十一歳の独身男なのだがモテない方だった。
身長こそ174センチと健二と全く同じなのだが角張ってごつい感じの容姿と体形が災いしたのかここ数年彼女に恵まれていない。
そのせいかいつも健二の前ではテレビに出て来るアイドルや会社の女の子の話ばかりしている。
「今朝キムカナと廊下でばったり会っちゃった。挨拶がてらに少し話してやったよ」
その日の昼休みにも社員食堂で健二との昼食時に恒一は嬉しそうに話し始めた。
入社二年目、社内でも人気のある二十二歳の木村加奈はみんなからアイドルみたいに『キムカナ』と呼ばれている。
健二が見ると恒一の目のやる方向にその木村加奈の姿があった。加奈は健二たちより二十メートルは離れている窓際の席で仲の良い女性社員たち数名と楽しそうにしゃべりながら食事をとっていた。
確かに恒一が好きになるのもわからないでもない。くりくりっとした大きい瞳、長いまつ毛。短めの髪型が少しボーイッシュに見え、眩しいばかりの可愛い笑顔が爽やかで可愛らしい。
「おいおい、木村さんには学生時代から付き合っている彼氏がいるって聞いたぞ」
健二が言うと、
「うん。まあ、そうらしいんだけれど、別れるかも知れないしな」と恒一は言う。
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