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「気の長い話だな」
健二は苦笑した。そしてぼんやりと加奈の方を眺めながら、
…ああいうかわいい子はあっという間に売れちゃうもんなんだ。恒一ももう少しレベルを落として妥協していかないと現実問題として一生独身に終わってしまうんじゃないのか。
と健二は同僚を心配した。
とその時である。
「はっ」
健二は一瞬驚いた。加奈が急に健二の方を向いたので目が合ってしまったのだ。しかも気のせいかにこっと健二に対して笑みを向けたようにも思えないでもない。健二は気まずいと思い慌てて視線を逸らした。
「ん?どうした?」
恒一がそんな健二の様子に気づいて訊いてくる。
「い、いや。自宅の冷蔵庫に野菜があったのかどうか急に心配になって」
健二はどぎまぎしながら話を逸らそうと試みた。
「おかしなやつだなあ。そんなの帰りに買えばいいじゃんか」
「うん。まあ、そうなんだけど。朝チェックし忘れたから買っていいのか悪いのか気になるんだ」
「冷蔵庫の中身だろ?そんなの忘れるなんてお前も歳だな」
「歳だって?お前と同じだよ」
恒一は笑っていた。健二もつられるように笑った。ふと加奈の方を見るといつの間にか席を立ったようで先ほどのテーブルにはもう加奈の姿はなかった。
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