会社帰り

１８

　健二はどういう方法で加奈に別れを告げようか迷った。しかしそうた易いことではない。加奈を傷つけることは必至だった。

　それでも健二はついに加奈に対して別れを告げることにした。それは彼の休暇中の水曜日のことだった。面と向かっては到底出来ないと思い携帯で話そうと思った。

　夜の十時に健二は久々に携帯の電源を入れた。やはりたくさんのメールやら電話の受信履歴が残っていた。彼はそれらの内容を確認する元気はまだなかった。

　健二は意を決して加奈に電話をしようとした。その時だ。携帯が電話を受信して鈍いバイブ音を発し始めた。見ると加奈からの電話だった。健二は一瞬ためらったがすぐに応答ボタンを押した。

「健二…さん？」

　それは懐かしくて愛しい加奈の声だった。

「うん」

　健二は動揺した。どう切り出していいのかわからなかったからである。

「心配してたわ。大丈夫？」

「うん。大丈夫だ」

　健二はここで言おうか言うまいかの葛藤で心臓の鼓動が速くなって来た。

「会えない？明日にでも。わたし、吉祥寺まで行くわ」

　加奈がそう言った瞬間、とうとう健二の決心がついた。

「いや…もう君とは会えないよ」

「えっ？」

「僕たちがこれ以上付き合っても幸せになれないんだ。君もそんな気がするだろう？」

「どういうこと？山田さんのこと？」

　加奈は腑に落ちないようだった。

「ごめん。ずっと考えてきた。だけどこのままじゃあ二人とも不幸になる」

「何よ。そんなのわからないわ」

「別れよう。さようなら」

　健二はそのまま携帯の電源を切ってしまった。加奈はそれでも即座に健二の携帯に電話をかけた。

「現在電波の届かないところにあるか電源が入っておりません」

　携帯を通して聴こえてきたのは機械的なナレーションだった。

「酷い。酷いわ」

　その夜加奈は何度も何度も健二にかけ直した。しかしその度に空しく同じナレーションを聞かされるだけだった。