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 加奈はショックだった。無理もない。付き合ってる男から突然携帯越しに別れを告げられてしまったのだから。    健二が親友であった山田恒一の自殺を機に少しおかしくなっていたことは気付いていた。それまでのように話しかけても心ここにあらずの気のない返事ばかりだったし、ようやく恒一の葬儀が終わってひと段落してお互いの心にあることを伝え合おうと思っていた矢先に今度は有給休暇を長期間取って引き篭もり、揚句は一方的な別れの宣告をされてしまったのだ。    加奈は健二の携帯に何度も何度もかけ続けたしメールも送り続けた。確かに健二の辛い気持ちは解る。だからこそこういう辛い時にお互いを励まし合うのが恋人同士というものなのではないのだろうか?それなのになんで彼は逃げようとするのだろうか? 「別れよう」なんて突然言われても到底納得なんか出来る筈はなかった。加奈はすぐにでも直接健二に会って彼の間違いを気付かせなくてはいけないと思った。  翌朝加奈は午前四時半に起床すると朝食をとらないで吉祥寺に向かった。そして六時十分に健二のマンションの前に到着した。 「加奈…」  ブザーを鳴らすとしばらくしてすっとドアが少しだけ開き健二の顔が現れた。顔色も悪く覇気がないその表情は加奈に胸騒ぎを感じさせるのに十分だった。 「まあ。入れよ」  今まで加奈が健二の部屋に泊まることはなかったが何回か中には入れてもらったことはあった。かって知ったる健二の部屋のソファーに加奈が座ると健二は即座にカップに温かいコーヒーを持って来た。 「飲めよ。多めに作っておいて良かった」 「うん。ありがとう」  加奈が緊張しながらもコーヒーを飲むと静寂が訪れた。どこかで雀と伝書鳩の声が聞こえてくる。 「確かに電話で別れを告げたのは悪かった」  その静寂を破ったのは健二の方だった。 「そんなことで別れるなんてバカらしいと思わないの?」  加奈の口調は珍しく攻撃的だった。 「そんなこと?」 「そう。山田さんのこと。確かに気の毒だとは思っているわ。だけど別れる理由にはならないでしょ?」
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