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「それは見解の相違ってもんだ。僕にとって山田は『そんなこと』じゃないんだ」 「わたしよりも大切ってこと?」 「いや。僕が山田のことを大事に思っていることと君のことを大事に思う気持ちは次元が違うんだ。そしてそれはどちらが上でどちらが下とは言えないものなんだ」 「良くわからない」 「うん。僕にも上手く説明が出来ないんだ。ただ言えることはこの前も話した通り、後ろめたい気持ちで君と付き合い続けても上手く行かない気がするんだ」 「そんなのおかしいよ。わたしたちは少しも後ろめたくないんだから」 「いや。そう思っていたとしてもどこかで後ろめたさがある筈だ。そして山田からの強い呪いとも言えるものを感じ続けなくてはならない。僕は君を幸せにしたいけれど自信が全くない。僕は君の不幸を見たくない」 「だから一緒に立ち向かいましょうよ。ねえ」 「いや。軽はずみに交際を続けることは双方にとって命取りになる。僕たちが例え一緒になってそれなりに幸せになろうとしても必ず山田の陰に怯えなくてはならない。そしてその心の隅にある山田の記憶は僕たちが死ぬまで付きまとって来るんだ。それは殺人犯が完全犯罪で逃げおおせても良心の呵責で精神的に追い詰められるようなものだ」 「わたしたちは人を殺してないわ」 「いや。僕のせいで山田は死んだんだ。僕はその罪を償わなくてはならない」 「そんなのおかしいわ」 「いや。僕はそうは思わない。とにかく…」 「何よ?」 「とにかくもう決めたんだ。別れよう」 「いやっ!」 「帰ってくれ!」  健二はそのまま加奈の右手首を掴むとドアのところまで連れて行った。 「いやよ。放して」 「ごめん」  そう言うと健二は力ずくで加奈をドアの外に出し、加奈の靴も外に放り投げた。 「酷い。何でそんな酷いことをするの?」 「君のためだ。さようなら。幸せになるんだぞ」  健二は最後に加奈に対して思いやりの気持ちを見せたつもりだった。そして思った。 …これでいいんだ。加奈のためにも。
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