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20
しばらくの間ドアの外で加奈が何か叫んでいるのが聞こえてきたが健二はステレオの電源を入れて大きめのボリュームでヘッドホンでJウェイブを聞き始めた。MCが爽やかな女性ボーカルをかけていた。
二十分間それを聞き続けると健二は幾分冷静さを取り戻した。彼はヘッドホンを外しステレオの電源を切ると先ほどまで聞こえていた加奈の声は聞こえなくなっていた。さすがに諦めて帰ったようだ。念のため玄関へ行きドアをそっと開けて外を見るとやはり加奈の姿はなかった。
…終わったな。でもこれでいいんだ。
健二はそう思うと今度は旅支度を始めた。二十分もすると健二は四、五泊は出来そうな量の衣類、それからスナック菓子に洗面具などをバックパックに詰め込み終えた。健二は部屋の戸締りを入念にしてマンションを出た。
ひんやりと静かな早朝の住宅街をJRの吉祥寺駅目指してぱんぱんに膨らんだ少し重たいバックパックを背中に背負いながら健二はひたすら駆けて行った。
健二はまずオレンジ色の中央線に乗ると吉祥寺駅から新宿駅まで行きそこから埼京線で大宮に行き、そこで東北新幹線に乗った。
目指すは青森だった…。
何故か健二の頭に目的地が浮かんだのだ。青森県の恐山。日本屈指の霊山で『いたこ』による『口寄せ』で死者の声が聞けることで有名である。
もっとも健二はいたこに会って恒一の霊の声を聞こうなどという具体的なヴィジョンは持っていなかった。ただ漠然に死者のいる世界に近い場所に行ってみたくなったのだ。そこで何か恒一を感じることが出来るかも知れないと彼は考えたのだ。
その日の午前中に健二は青森駅に着き、青森駅内のレストランで昼食をとると駅前のビジネスホテルにチェックインした。
早朝からいろいろあったので健二はホテルでシャワーを浴び、横になってテレビを見ているといつの間にか寝てしまっていた。気が付くと陽は沈みかけ、夕方になっていた。健二は空腹を覚え、取り敢えずホテルを出た。
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