21

1/1
前へ
/70ページ
次へ

21

 加奈はその朝、放心状態で川越のマンションへ帰った。身体から力が抜け、精も根も尽き果てた感じだ。今までの人生でこんなに叩きのめされたことはなかったかも知れない。そう思うと加奈は力なく苦笑した。  加奈は洗面所の鏡の前にいた。苦笑したその表情はそれまでの彼女のそれとはまったく異質のものだった。顔面蒼白で自慢の肌にツヤもなかった。 …駄目だ。今日は休もう。  加奈はそう思い携帯を取り出して会社に電話した。電話に出たのは健二と同じ部署で三年先輩の星野有香だった。 「おはようございます。あっ木村さん?どうしたのぉ?休みぃ?」  元気で屈託のない有香の声を聞いて加奈は羨ましいと思った。加奈が休むことを告げると「お大事に―」とやはり元気いっぱいだった。加奈は電話を切った後に思わず苦笑した。  加奈が会社の次にかけたのは新潟の彼女の実家だった。 「あれ、加奈、どうしたの?」  電話に出たのは加奈の母親だった。 「うん。お母さん。この前言ってた話なんだけど…」 「話?何のこと?」 「わたしのお見合いの話。まだ、断ってないんだったら会うだけ会ってみようかなあなんて思ってね」 「へぇー。珍しい。今までさんざん断ってきたあんたが見合いを受けるなんて。うん。大丈夫だよ。話が決まったらこちらから電話するよ」  加奈はしばらく近況報告をしてから電話を切った。すぐにでも見合いの段取りが整いそうな雰囲気だった。 …これでいいんだ。  加奈は自分に言い聞かせた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

585人が本棚に入れています
本棚に追加