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 男が挨拶してきた。健二も「こんにちは」と挨拶し返す。 「いたこに会いに来たんですけど会えませんでした」と健二は苦笑して見せた。 「いたこ…ですか?誰か亡くなられた方とお話ししに来たんですか?」 「はい。友人が最近亡くなって…自殺でした」 「ほう。それはご愁傷さまでした」  男は合掌して見せた。その堂にいった雰囲気からやはり僧侶のようだ。 「お坊さんですか?」 「はい」  健二が思った通りだった。 「そうですか」 「失礼ですがあなたも悩まれていますね?」 「えっ?」  突然の僧侶の言葉に健二はギョッとした。 「聞かせてもらえませんか?あなたの悩みを」  僧侶は更に突っ込んで来た。健二は思いもかけない展開にどう対処していいか判らず途方に暮れた。会ったばかりの人間にそう簡単に悩みを聞かせて良いものだろうか? 「お友たちの自殺が関係ありますよね?」 「えっ?ええ…」  健二はあたふたした。確かに「友人が自殺した」と言った直後なので察しはつく話だった。それでも妙にその男には達観したような威厳が感じられた。 …仕方がない。話してしまえ。  健二は少し投げやりになりながらもその威厳に満ちた僧侶に甘えてみたくなった。健二は加奈や恒一のことを洗いざらい話した。  恒一の死に至る経緯や死に際に残したメモについてはもちろん、健二が恒一に対していかに申し訳なく思っているかを彼は心の中から振り絞るように話した。  僧侶があまりに柔和でやさしい感じで聞いてくれるので、健二はある種の爽快感を覚え、つい加奈についても美人なだけではなく性格も良く彼がいかに愛しているのかも熱く語ってしまった。 「あははは。何だか羨ましい話ですな」 「はあ」  健二が話し終わった途端に大声で笑い出した僧侶に健二は戸惑った。 「ひとつお話ししましょう。何で人間がこの世に生まれて来るのかを」 「はぁ?」  僧侶は話し始めた。 「誰もが修行をしに来るのがこの世です。各自テーマを持ってきます。ある人は家族の大切さを学びに来るし、あるものは他人に対する思いやりを学ぶ。そしてそれらを学ぶためには必ず苦しみを乗り越えなくてはならない」 「そうかも知れませんね」  健二は自分のことを語り尽くしたせいか放心状態で僧侶と相対していた。 「あなたの友人はどうでしょう?好きな女性が友人であるあなたと結ばれてしまった」 「はい」
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