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「試練ですよね。ところがあなたの友人はそれを乗り超えようとしないで人生を投げ出してしまった。しかもあなたに恨み言を書いたメッセージを残して。もしも神様が存分するとしたらどう思われるでしょう?」 「あまり…良くは思わないかも知れませんね」  健二は僧侶が『神様』の話をしてきたので少し違和感を感じながら答えた。 「そうですね。私もそう思います。では、あなたは?友人に死なれたからと言って彼女との交際から逃げ出してしまった」 「それは…。それは仕方ないんじゃないですか?彼女を不幸にしないために身を引いた訳ですから」 「彼女をとられて生きる自信がなくなって自殺した友人と一緒ですよね?」 「えっ」  健二はやさしい雰囲気の僧侶が思いの外厳しく言ってきたのでたじろいだ。 「そうは思いませんか?」 「いや。僕の場合死のうとは思っていないし…」 「ははは。でも自信がなくて逃げ出したことには変わりはないでしょう?」 「いや…」  健二は上手く自分を説明しようとしたが言葉が思い浮かばなかった。 「まあ。考えておいて下さい。とにかくあなたとお話が出来て良かった。では…」  僧侶はさっと湯船から上がると体を拭いさっさと脱衣場へと去って行った。取り残された健二もしばらくぼんやりしていたが我に返ると急いで体を拭いて脱衣場へと向かった。 「あれっ!いない」  まだ、五分と経っていないのに脱衣場には僧侶の姿が見えないのだ。  そればかりではない。健二がさっとパンツを穿いて扉を開け、即座に小屋の外を見回してみたがやはり僧侶らしき姿は見つけられなかった。 …もしかしてあの僧侶?  健二は背筋に寒いものを感じながらも脱衣場に戻ると服を着始めた。ところが…。 「何だろう?」  しばらくすると脱衣場にある十数個のかごのひとつに何やら入っていることに気が付いた。 …忘れ物だろうか?  健二が好奇心に駆られてそのかごの中身を見てみると新聞紙で包まれた何かのかたまりとその上に何気なく置かれたメモのような紙切れがあることが分かった。 …これをお持ち下さい。あなた方二人を必ず守ることが出来る筈です。  メモにはそう書かれていた。『これ』というのが新聞紙の中身なのかも知れない…、と健二は思い、恐る恐る丸められた新聞紙の塊をゆっくりと捲っていった。
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