無感の牧歌

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『自分』が分からない 『人間』が分からない 『世界』が分からない 『言葉』が分からない 『表情』も『空気』も 『色』も『心』も… 『痛み』とは『破壊』 『快楽』とは『創造』 美しい『破壊』 醜い『創造』 呼吸は永遠 でも何も吸い込めない 朽ちた涙が幾重にも積み重なり、その重みに耐えられず、 ただ激痛だけが寄せては返す 断続的か継続的か 減少か増幅か それも分からない 全ての感覚が内面へ向かう むしろ『死』その物が 人間の理解を超えているようだ 人間は何ものにも追い付けない 喜びへも 涙へも 生へも 死へも 誰も追い付けない 誰もその手に 完全には掴みきれない 人間が感じる全ての物は本当に手に入ってはいない 指の間からスルスルと零れ落ちて消えている 全ては刹那の慟哭(どうこく)のよう 私はそれを認識するが その知覚も『知覚』でしかない 全てはがらんどう 全ては空白 全ては抜け殻 全ては無 何もない 全ては『存在している』と言う知覚だけ ある時… 私は太陽を見ていた 葡萄の蔦(つた)と レモンの木を照らしている その木の葉たちは照りつける日差しを和らげていた 爽やかな風が体を駆け抜け、 全身を覆い過ぎ去ってゆく 上を見上げると鷹が空中を舞っていた 水車の音は心地よい川のせせらぐ音と調和している 牧場では美しい花が咲いて微笑んでいる 私に話し掛けているようだ やがて太陽は夕日になり古びたレンガの教会を赤く染めた 羊飼いが羊の群れを引き連れてゆっくりと歩いている その景色は何か暖かいもので私の心を包んだ 教会の中へ行くと 牧師は私に金の林檎を渡す 優しい光は揺らぎながら私を祝福しているようだ 喜びの時 それは夢 命の伊吹が人間の値打ちを教えようとしている 涙が止まらないが 理由は分からない 優しさや愛を 人間は追い求める それが夢でも 本当に存在しているかどうかは分からない その知覚が 精神を揺らがせる まるで幻が 幻を追いかけている それが生きている現(うつつ) ぼやけていた… 何もかもが 輝いていた…
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