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あやめ「先生は、薩摩のお生まれですか?」
陵安「私ですか?いえ、私は江戸の方から参りまして。こちらに来てもう五年と半年になります。」
あやめ「五年にも?長いんですね。」
陵安「まぁ…」
私はここで少し、鎌をかけてみることにした。
あやめ「五年もいたら、さぞかしいろんなことがあったでしょう?何か印象に残ってる出来事とかあります?」
陵安「印象に残ってる出来事…?そうですねぇ。一度、診察所が小火騒ぎにあったことかな。」
あやめ「それは大変ですね…。何年くらいに?」
陵安「さぁ…もう、三年は前になるかな。」
あやめ「そうなんですかー。」
…掛からなかったな。
何年って聞いて西暦が出てきたら確実だったけど…
陵安「では、私はこれで。」
あやめ「ご、ご苦労様ですぅ。」
すっと襖が閉まって、私はため息をついた。
あやめ「はぁ…」
利通「…なんだ、小娘。気まで病にかかったか。」
入れ替わるように大久保さんが部屋を訪れた。
あやめ「大久保さんっ?どうしたんですか?」
利通「見…見舞いに来てはいけないか。」
あぁ、お見舞いかぁ。
てか、お見舞いなんてしてくれるんだ。
あやめ「ありがとうございます。」
利通「…礼には及ばん。」
あっ、顔が赤い。
大久保さんは顔を隠すように続けてこう言った。
利通「今日、坂本君はいるか?」
あやめ「え…龍馬さん?たしか、自分の部屋にいたと思いますけど。」
利通「そうか…邪魔をしたな。」
踵を返した大久保さん。
あやめ「えっ、もう行っちゃうんですか?」
少し残念な気がする。
利通「…なんだ、私に側にいてほしいのか?」
あやめ「なっ…!ち、違いますっ!」
利通「お前には旦那がいるだろう。私なんぞに頼るな。」
そう言って大久保さんは襖を閉じた。
…また、小娘って言った。
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