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陵安「父上っ!どうして怒らないんですかっ?!」
男は着物の裾についた泥をはらいながら立ち上がり、ゆっくりとした口調でこういった。
康長「いいんだよ。怒るほどじゃない。怒る暇なんて、俺にはないよ。」
父は地面に落ちた薬草袋を拾い、
康長「さぁ、帰ろう。母さんが待ってるよ。」
陵安「……はい。」
僕の手をとって再び歩き出した。
父の名は北崎康長。町の隅のボロい家で医者をしていました。
腕は確かだった。でも、誰も彼を使わなかった。
陵安「父上、僕は許せません。」
康長「何がだい?」
陵安「だって、父上はすごいお医者様なんでしょ?どんな病気だって治せるのに、どうして嫌われないといけないんですかっ?」
小石を蹴飛ばしながら僕は父に言った。
康長「ハハハ…でも、医者だって人間だ。俺一人だけがちやほやされるわけにはいかないだろ?」
陵安「ちやほや?」
康長「誉められるってこと。」
父は目線を僕に落とし、こう続けた。
康長「いいか、陵。人間、どうしても嫌なことがあったり、辛いことがあったりする。そういうときはな、『ありがとう』って言いなさい。」
陵安「どうして?」
父は笑顔で言った。
康長「そういうと、自分の中の嫌な気持ちがなくなるんだ。それで、スッキリする。」
陵安「…そんなもんですか?」
康長「あぁ、人間なんて、そんな生き物だ。」
父はまっすぐだった。
まるで、すべてを知っているみたいになんでも教えてくれた。
そんな父が、僕は大好きだった。
康長「さあ、母さんにこれ、持っていってあげなさい。」
陵安「はいっ!」
父の手から薬草袋を受け取って駆け出した。
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