―第六話―

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小さくて、今にも崩れ落ちそうなボロい家が我が家だった。 そんなガタガタの扉を僕は精一杯開けた。 陵安「母上っ!ただいま帰りました!」 千代「お帰りなさい。まぁ、随分と顔を赤くして。」 母上は囲炉裏の奥に横になっていた。 顔には生気がなく、腕にはぐるぐると布切れが巻かれていた。 陵安「母上のために今日は上野まで行ったんだよっ!」 ほら、と袋一杯の薬草を見せる。 千代「まぁ、こんなにたくさん。ありがとう。」 優しく母上は僕の頭を撫でてくれる。 康長「傷の具合はどうだい?」 千代「傷ですか?…見ての通りですよ。」 母上は父上に包帯の腕を見せた。 康長「…少し見せてごらん。」 父上はそっと包帯をほどいた。包帯の下から現れたのは緑色の膿みにまみれた腕だった。 父は顔をしかめた。 陵安「…母上、悪くなってるの?」 僕も思わず不安な顔になる。 母上はそんな僕を見て笑顔で言った。 千代「大丈夫よ。傷がひどいのは、治っている証だから。」 陵安「…本当?」 千代「あら、私の言うことが嘘だったことがあった?」 陵安「いいえ!母上が嘘を言うはずがありません!」 千代「ふふ…そういうことよ。」 そして母上は優しく、また撫でてくれる。
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