―第六話―

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千代「…陵安は、父上のようにまっすぐ生きなさい。そして、人のことを助けられる人になりなさい。」 陵安「はいっ!僕、なりますっ!父上みたいな、お医者様に!」 それが当時の目標だった。 康長「んー。どうだろう。陵は不器用でおっちょこちょいだから。」 千代「まぁ、そんなことないわよね。」 ねー、と母上と顔を見合わせる。 康長「ハハハ…ほら、母さん薬飲むから、お水汲んできなさい。」 はいっ、と僕は井戸まで桶をもって走った。 【江戸・北崎康長】 康長「…」 まったく。戸ぐらい閉めなさい。 心の中で私は呟き、暑い夕暮れの中へ飛び込んだ息子の扉を閉めた。 千代「元気ですね。」 千代が体をお越しながら言った。 康長「寝てなさい。体に障る。」 それを制止する私。 千代「あら…私が倒れても、あなたが助けてくれるんでしょ?」 康長「…『緑膿菌』は、ある薬がないと治らないんだ。それは未来にしかない。」 今の時代にはない。精製自体が不可能なのだ。 千代「それはわかってます。ただ、寝たきりでは…」 康長「千代、何度言えばわかってくれるんだい。無理をすればそれだけ君の体を蝕むんだよ?」 千代「…冗談じゃないですか。」 ぷいっ、と千代は背中を向けて布団に潜ってしまった。 康長「…千代っ。」 私は顔を寄せて千代をなだめようとした。 すると突然、千代が顔を出して、 ゴッ! 康長「ったぁ?!」 千代「…お仕置きですっ。」 強烈な頭突きを食らわされた。
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