時給1万円のバイト。

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真っ直ぐ先に机と椅子があって、中年の男性が座っている。 他にはソファーもあって、テーブルもあるし。 大きなテレビがあった。いいなぁ大きなテレビ。 欲しいなぁ。 「それ、14万ちょい、1日働いたら買えるけぇ」 男性は読心術でも持ってるのか…考えてた事言われて、テレビから目を離した。 「マミさんお茶くれんか?」 男性が奥の方へ声をかける。 でも…しんっーとしてない? 「まみしゃんーお茶!」 男性は声を張り上げた。 元々男性の声は電話を通しても大きく声がよく通り、しかも…広島弁のアクセント。 ヤクザ物のビデオの殆どが広島弁だから…なんとなく男性がヤクザに見える。 男性はかなりガタイが良い…デカイが似合うかな? 短髪だし…見た目…極道…!!! これは本音だけど絶対に言えない。 「ウルサイ!二度も言わんでも、聞こえとるくさ」 女性の声が奥からした。 「お茶」 男性がもう一度お茶を要求する。 …が、 「めんどくさい、誰かに頼めばいいやん、今取り込み中!」 と怒ったような口調。 えぇっ!! 職場放棄ですか? 男性は苦笑いを僕にした。 「奥に行ったらのぉ、ホットコーヒーが沸いとるけぇ、二人分頼むわ」 「はっ?」 男性の言葉に耳を疑う。 「コーヒーは嫌いけぇ?」 「いえ、好きです」 僕は思わず即答した。 男性はニッコリ笑うと奥を指差す。 僕にコーヒーをいれろと? えっ?僕…客だよね? 疑問が沢山…沢山溢れて来るけど…奥まで進む。 煙草の煙が白く空気に漂っている。 奥の方にキッチンがあるようで、そこから煙草の煙が漂って来ているようだ。 キッチンへ入ると確かにコーヒーメーカーがあり、コーヒーのなんとも言えない良い匂いが煙草の煙の匂いに若干おされ気味。 「カップならそっち、キム兄は赤いカップで、アンタ…新しいバイト?客?」 下から声がして驚いて、声の主の方へ視線を下ろした。 小柄な女性が座り込み煙草を吸っている。 「バイト…はまだ…」 僕は何て答えて良いか分からずに首を傾げた。 「時給1万に釣られた?」 女性は僕の図星をつく。 「…あの、本当に時給は1万なんですか?」 確かに男性は直ぐに大きなテレビが買えると言ったよね? でも、時給1万は半信半疑だった。
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