41人が本棚に入れています
本棚に追加
高校までそう遠くない位置に家があるため、少女の住む一帯は自転車通学を認められていない。
つまり今、少女は食パンを頬張ったまま住み慣れた街を全力疾走しているわけだ。
住宅街の十字路を真っ直ぐ走り、T字路を右に曲がる。
お約束のイベントは発生しない。
食パンも食べ終わった。
(ですよねぇ、現実ってこんなもんですよねぇ)
と、そんな事を考えながら走り続けていると高校の校舎が目に映った。
しかしその手前の横断歩道の信号に少女は捕まってしまう。
「はぁ……はぁ……20分、ああ~もぉ、絶対遅刻じゃんかさぁ」
一般の女子高生が20分間全力で走り続ける事はまず出来ない。
休み休み走り続けた結果なのだ。
「こういう時ってなかなか信号変わんないよねぇ……はぁ」
ため息をつく少女、信号は以前赤い。
その信号が赤から青に変わった。
また走りだす少女。
しかしここに来てお約束イベントが発生してしまう。
「キャッ!」
「おっわ、危ねぇ!」
信号を渡りきった所で、右の横断歩道を車が来てないのを理由に信号を無視して走ってきた少年とぶつかったのだ。
信号無視は危険です、止めましょう。
しかし、ぶつかったと言っても青年が体をかわした為、少女も青年も転ぶことはなかった。
「すまねぇ眼鏡っ娘! 今度会ったら謝るから、今は勘弁してくれ!」
ブレザーを身に纏った少年は、そう言うと、担いだエナメルバッグを揺らしながら走り去ってしまう。
残された少女の耳には校舎から予鈴が聞こえていた。
(よし、今日はサボろう)
快晴だった筈の空、そこにはいつの間にか厚い雲が広がっていた。
不意に携帯を取り出す少女。
「あっ、もしもしミキ? 今日ちょっと学校サボるから」
『え? ちょっと神楽』
「先生に病欠って言っといてねぇ、んじゃ、また明日ぁ」
最初のコメントを投稿しよう!