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「――巧馬、これからどうする?」
メールを送信してから、母がベッドの枕元に立っていた。
「なにを――どうするって」
母が言おうとしている意味がわからない巧馬は、オウム返しのようにそのまま母へ訊き返す。
「巧馬が、女の子になっちゃってからの名前よ。……もう高校だって、学校推薦で決まっているんだから――」
巧馬の成績は優秀というわけではなく、至って平凡だ。それでも、巧馬が高校進学の際に一般試験ではなく、学校推薦を取ることが出来たのは一日も休むこと無く学校に通い続けた皆勤と、平凡ながらも安定した成績を買われてのことだ。……卒業間際に、皆勤は無くなってしまったが。
「名前、変える必要があるの?」
「当然でしょ。見た目女の子なのに、男の子の名前じゃ、女装でもしてるのかって思われちゃうでしょ?」
あながち間違っていないんじゃないか。この時の巧馬は、割と本気でそう考えた。
「――明日また来るから。ゆっくり、自分で考えなさい。これは、巧馬が決めることだからね。」
そう言って、母は巧馬の返事を待たずに荷物をまとめて病室を後にする。残された巧馬は「突然言われてもなぁ……」と息を吐いて、母が出て行った扉を見つめていた。
ため息を付いて、視線を戻した際に最近持ち込まれた机の上に、新聞が無造作に置かれていることに気づいて手を伸ばす。
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