第00章 予兆

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2月は一年の中で最も短い月だ。それでも、雪に埋もれて生活をしているとその2月でさえ長く感じる。 「――もう義務教育も終わるのか……。」  卒業式を目前に控えた糸井巧馬は、その予行練習をしている。講堂に全校生徒が集まって、卒業証書授与の一部を簡略化した式典の一連の流れを練習する講堂には、雪国という特性からか、ジェットヒーターが置かれて講堂内を暖めているものの、広い講堂はなかなか温まらずに、在校生・卒業生ともに、ジャンバーを羽織って、両手をこすり温まろうとしている人が多い。 “3年間の指定教育を終え、卒業証書を授与される者――”  開会の言葉から、国歌斉唱、来賓祝辞等の練習を経て、ようやく卒業証書授与の練習に入る。ただし、練習の時は1組のはじめから数人と、3組のおわりの人だけが席から立って壇へ上がる練習をする。どうやら、教員や来賓への挨拶の練習も兼ねているようだ。 「……?」  座っているだけの簡単な作業のはずであるのに、巧馬は不意に後頭部に“重み”を感じた。それと連動するように、睡魔が襲撃してきた訳でもないのにまぶたが急に重くなり視界が揺れる。 「――おい、巧馬。大丈夫か?」  隣の席の友達が、巧馬の異変に気づいてこっそりと声をかけてきた。 「――あ、あぁ……。だいじょうb――……」  そう答えようとして友達の方を向こうとした瞬間、巧馬は身体から平衡感覚が失われていく。自分でも何が起こっているのかが分からないまま、隣に座る友だちの姿が傾いていって―― それと同時に、巧馬の視界は暗転していく。
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