第00章 予兆

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・翌朝・  昨夜の夕食と同じ薄味の食事を完食して、暇つぶしになるようなことも見当たらずに手持ち無沙汰になった巧馬は、窓から見える道路を通過する自動車の数をカウントしていた。 (そういえば、明日って卒業式――だよなぁ)  最後に車が通過して、5分ほどが経った頃にふと卒業式のことを思い出した。  道路から目線を上げて、遠くに見える雪化粧をした久比岐連山を見ながら学校のことを考える。 「どうなるもんかぃね……」  ――やるせなく独り言をつぶやいても……その時、巧馬は少し自分の声が上ずっていることに気づいた。声変わりを経て、それなりに男っぽくなってきた声色が、声変わりをする前の状態になったようなきがするのだ。 「失礼するよ~ って、巧馬君?どうかしたの、眉間にシワなんて寄せて……」 「ぅえ!?」  ノックもせず突然部屋に入ってきた人に驚いて無意識に声が出る。やっぱり少し上ずったような声色だ。 「まぁ、ノックもせずに突然入ってきたことは謝るけどさ。」   ――あ、一応悪気はないんだ。 「わたし、山本翔子。君の担当になったから。よろしくね」  気さくに自己紹介をする翔子を、巧馬は呆気にとられたような目で見つめる。  白のナース服を身にまとった翔子は、片手にカルテを挟んだバインダーを持って巧馬に近づいていく。健全な思春期男子なら、いかがわしい妄想が這い寄ってきそうなシチュエーションだが、不思議と今の巧馬は賢者モードに近い感覚で翔子と向き合うことができていた。
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