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「……あのさ」
「ん?」
「その……見られるとさ、食べづらいんだけど」
草原で獅子が食事をする時におこぼれを狙うワシ……いや、今の場合はハイエナかな?そんな感じで、遥が私の朝食を狙っているようで落ち着いて食べることが出来ない。
「まあ、私のことはお気になさらず。ほらほら」
「いや、無理……」
何事も、他人に見られていると急に身動きが取れなくなる。
「あれ、無理?」
「えっ」
うん、その一瞬だった。ちょっと遥に一言文句を言おうと、お椀を机に戻したその瞬間だった。待ってましたと言わんばかりに、遥の手が机に伸びて、おいてあった味噌汁の入ったお椀を持ち去っていったのだ。その動きに気づいて私が机の上を見たときには、もう味噌汁は全部遥のお腹に入っていた。
「あ……お味噌汁……」
「やっぱ勇の家の味噌は美味しいねー」
のんきに味を評価している遥とは対極的に、私は――私は……
「ねえ、遥……?」
「なぁに?って、ちょ……琴音…!?」
食べ物の恨みはなんとやら、私の目にはお椀を持って怯えている遥の姿が映った。
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