第00章 予兆

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 巧馬の点滴を交換して、朝食の御膳を下げながら、翔子と当たり障りの無い会話を交わす。もう少し食事の味を濃くできないかとか、この窓から見える景色についてだとか。本当にどうでもいいことを話していた。 「――もうじき、巧馬君の担当の先生が来るだろうから、聞きたいこと。考えておいたほうがいいよ。」  今までの会話のノリでサラリと言われた言葉に、巧馬はどう返答すればいいのかわからなくなって、不意に沈黙する。 (――病名とか言われるのかな……余命宣告……とか)  無音空間と化けたこの室内の重苦しい空気。そうなることを予想していたのか、翔子は動じること無く作業を続けた。 ――コンコン  不意に扉をノックする音が聞こえ、翔子が扉を開ける。その向こうには白衣を着た中年男性の医者と母さんが立っていた。 ・・・ ・・ ・ 「このことは、もう君のお母さんは知っているんだけどね……」  巧馬は自分の知りうる知識の中で、このシチュエーションで医者から告げられる言葉をシミュレーションする。そのなかで、どうしても「余命宣告」がまっさきに連想されてしまう。 「巧馬君――」  どうせならひと思いに言ってくれと、巧馬の額には冷や汗が集まる。 「――君は――女の子になる。」 「……はぁ?」  医者から言われた言葉に対して、一呼吸置いて巧馬は聞き返した。 「無害奇病、〝ジェンダー病〟に罹ったんだよ、巧馬君は」  巧馬の頭のなかは完全に混乱した。
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