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巧馬の点滴を交換して、朝食の御膳を下げながら、翔子と当たり障りの無い会話を交わす。もう少し食事の味を濃くできないかとか、この窓から見える景色についてだとか。本当にどうでもいいことを話していた。
「――もうじき、巧馬君の担当の先生が来るだろうから、聞きたいこと。考えておいたほうがいいよ。」
今までの会話のノリでサラリと言われた言葉に、巧馬はどう返答すればいいのかわからなくなって、不意に沈黙する。
(――病名とか言われるのかな……余命宣告……とか)
無音空間と化けたこの室内の重苦しい空気。そうなることを予想していたのか、翔子は動じること無く作業を続けた。
――コンコン
不意に扉をノックする音が聞こえ、翔子が扉を開ける。その向こうには白衣を着た中年男性の医者と母さんが立っていた。
・・・
・・
・
「このことは、もう君のお母さんは知っているんだけどね……」
巧馬は自分の知りうる知識の中で、このシチュエーションで医者から告げられる言葉をシミュレーションする。そのなかで、どうしても「余命宣告」がまっさきに連想されてしまう。
「巧馬君――」
どうせならひと思いに言ってくれと、巧馬の額には冷や汗が集まる。
「――君は――女の子になる。」
「……はぁ?」
医者から言われた言葉に対して、一呼吸置いて巧馬は聞き返した。
「無害奇病、〝ジェンダー病〟に罹ったんだよ、巧馬君は」
巧馬の頭のなかは完全に混乱した。
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