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ふと、手の甲を見るといつの間にか切り傷ができていた。
でも、そんなことは不思議じゃない。
生きているんだもの、誰だって傷くらいはできる。
ケガの具合を見てみると、その傷は痛々しくも、隙間からみずみずしい赤ピンク色の肉を覗かせていた。
試しにそっと触れてみると、電流が走るような感覚が体を駆け巡り、ある"刺激"を[わたし]に伝える。
「…痛い。」
そう、痛いのだ。
ただズキズキと言語では表現できない繊細かつ素直な苛(さいな)みが[右手]を中心に[わたし]を苦しめる。
でも、どうしてだろう……。
どうして、[右手]が痛がっていることを[わたし]は理解してしまうのだろう…。
[右手]がケガをしているのだから、[右手]だけが痛がってればいいじゃないか。
なにも[わたし]まで痛がる必要はないだろう。
[あなた]も、そうは思わないかい?
例えばだが、そうだなぁ…
はいている[靴下]にいきなり穴が開いたとしても[あなた]は全然痛くないだろう?
おやつのために買って来た[メロン]を真っ二つに切ったところで[あなた]は全然辛くないだろう?
つまり、そういうこと。
[わたし]は[右手]とそういう感覚と等しくなりたいと思ったんだ。
…でもね、[それ]は間違ってることに気付いた。
根本から無神経だったんだ。
本当はさ、[靴下]も痛かったのかもしれない。
[メロン]だって、泣き叫ぶほど辛かったのかもしれない。
だってそうだろう?
もし[あなた]の[右手]が切り落とされたとして、落ちた[右手]を焼こうが煮ようが[あなた]は感じないのだから。
ただ、[感性]をわかってくれる理解者がいなくなっただけ。
ただ、[心情]を伝える術(すべ)がなくなっただけ。
[靴下]や[メロン]のような孤独な物になってしまっただけ…。
けど、今の[わたし]は違う。
[右手]はちゃんと[わたし]を理解してくれていたんだ。
嬉しい時は大きく振りまわり
悲しい時は涙を拭ってくれる…。
寂しい時は温もりをくれて
怒った時は拳を握ってくれる
[右手]は、この上ない[わたし]の最高の理解者だったんだと、気付かされた。
だから、そんな一人で泣くことなんてないんだよ。
[わたし]も一緒に泣いてあげるよ。
叫んであげるよ。
背負い込んだ想いを、全て受け入れるよ。
「大丈夫、大丈夫…。」
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