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「……って、やばっ!!もうこんな時間!?」
早起きしたせいで調子ぶっこいて、鏡の中の自分に酔いしれていた。
ふと鏡に映っていた壁時計に目をやると、今から出ると待ち合わせ場所までギリギリという時間だった。
慌ててバッグに財布やスマホを突っ込み部屋を出た。
「あら、亜美かわいいじゃない。なあに?そんなかわいい格好して。ひょっとしてデー」
「行ってきます!」
ママの言葉を途中で遮って、私は勢いよく外へ走り出た。
エアコンの効いた室内から外へ出ると、途端にムアッとした蒸し暑い空気が身を包んでくる。
一気に、汗が身体中の毛穴から噴き出しそうになる。
でも私はこれからデート。
隆司に会う前から汗をかくなんてもっての他。
気合いで汗を引っ込める。……うそ。
パタパタと手で仰ぎ、少しでも早く汗がひけるよう努力した。
待ち合わせ時刻より数分送れて到着すると、やはり隆司は来ていた。
駅前に設置されている時計塔に寄りかかるようにして立っている。
「隆司ー!遅れてごめん!」
私はブンブンと大手を振って隆司に駆け寄った。
私の声に気づき、足元に視線を落としていた隆司が顔をあげる。
「おう。おは……」
「は」の字に口を開けた隆司と視線が交わる。
「……?おはよ?」
そのまま口が「よ」の形にならない隆司を不思議に思いつつ、先に挨拶をした。
私の挨拶に、隆司はハッとしたように「はよ」と早口で言った。
……なんだろう?
遅刻したから怒ってる?
私は隆司のぎこちない態度に不安を覚えた。
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