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映画館は混んでいた。
夏休みだし、学生も多い。
「ねえねえ、ポップコーン食べたあい」
「いいよお。何味がいい?」
「んーとぉ、キャラメル~」
「オッケー。俺もキャラメル好きだから半分こしよお?」
「いいよぉ。あ~んしてあげる」
「やったあ~」
バカップルもいる。
チケットを買うために並んでいると、目の前でいちゃいちゃしているカップルのバカ丸出しの会話が嫌でも耳にはいる。
チラリと隣の隆司を盗み見る。
絶対聞こえているはずなのに、我関せず、な無関心顔。
というか、私にも顔を背けるようにして立っている。
映画館に着くまでも事務的なものを除いて会話はほぼゼロ。
……なんなの?
待ち合わせ当初から感じていた違和感が強くなる。
「ねえ」
たまらず隆司のTシャツの裾を引っ張った。
ギクリとしたように私を見る。
「ねえ、なんか怒ってる?」
「……別に」
やっと目が合った、と思ったのに、すぐにそらされる。
やっぱり不自然。
なんで?
初デートで緊張してる?
それなら私だってそうなのに。
同じなのに。
なのに、こんな冷たい態度ってひどい。
せっかくおしゃれしてきたのに……。
かわいいって思ってくれるかな。
思ってくれたらいいなって……。
「バカ隆司」
「あ?なんだよいきなり」
「だって、全然こっち見ないじゃん。なんで?」
「……んなことねえし」
そう言ってるそばからまた視線をそらす。
「んなことあるし!なんでよ、バカ隆司。せっかく楽しみにしてきたのに、なんでこっち見ないのよ」
「いや……」
「初デートなのに遅刻してきたから?それで怒ってるの?」
「ちが……」
「じゃあなに?なんでさっきからこっち見ないの?」
「ちょ、ちょ。ストップ、ストップ。落ち着け」
隆司が私の目の前にその大きな掌をかざす。
「落ち着いてるもん。なんでこっち見ないの?やっぱり遅刻してきたこと怒ってるんじゃないの?」
「……っ、だから違うって!つーかお前が悪いんだろ」
「だから遅刻したことならごめんって」
「だからちげーっつってんだろ。じゃなくてお前今日すげー可愛いから……っ」
私の怒濤のまくし立てに対抗するように言い返してきた隆司の言葉に、動きが止まる。
……え?
コイツ、今なんて?
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