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「うん、真っ先にお兄ちゃんの部屋に向かった事について小一時間問い詰めたいところだけど、そのおかげで早期発見出来た訳だから今回だけ特別に許したげる」
併走するブラコン少女は、自分の事を棚に上げてそう言った。
自分こそたまに夜這いかけるのに、他人のそれを許さないとは一体どういう了見をしているのだろう。
「近付いてきたね、鈴莉」
「うん。お兄ちゃんは間違いなくあそこに居る」
舞咲学園。前に、肝試しをしに行った場所。
「大きな結界ですね……」
「空に逃げられたら、手も足も出ないからね」
およそ半径四百メートルの半球だろうか。
それが校庭をすっぽり覆っているようだ。
「確かにそう、です……ね?」
凜音が不意に立ち止まる。
目を真ん丸にし、開いた口を塞ぐ事すら忘れて。
「凜音ちゃ……ん?」
そして、徐に指差す方を見て、鈴莉も九紅璃も私も、絶句した。せざるを得なかった。
何……これ。
眼前にそびえる砂で出来た幾つものスカイスクレーパー。
一面から見ただけでは、数える事など到底出来やしない。
人間の“気”で、こんな事が可能なのだろうか。
常時巨大な結界を張って、砂礫の都市を建設して。
少なくとも。
こんな事をすれば、私は確実に“力”尽きる。
規格外だこんなの。
同じ土俵に立てる訳がない。
そう、思い知らされた。
先程の意気込みも何もかも、粉々に砕け散った。
この中に割って入ったところで、私は足手まといにしかなり得ない。
不甲斐なさを覚えるのも馬鹿馬鹿しくなる程に、全てがかけ離れていた。
――次元が違う。
そんな言い回しが頭に浮かんだ。
「これが……私の目指す場所、鈴斗様の――」
――本気。
「……自信を失わずにはいられませんね。これで足りないと仰るのですから」
確かに。自嘲する凜音を笑う事は出来ない。
「こんなの、あの時以来だよね」
九紅璃は、昔を懐かしむように、呟いた。
「あの時って何だっけ?」
「ほら、鈴莉が大怪我した時。怒り狂った鈴斗があの時、何て言ったと思う?」
何故か九紅璃は笑っていた。何故か笑っていられた。
「『この世で一番強いのは閻魔でも神様でもない!妹を守る兄だこの野郎!』だってさ。その言葉に嘘はなかったね、どの何にも負けない気がしたよ」
そう口にする九紅璃は、ただの恋する少女だった。
「多分、あれは私たちが手を出しちゃいけない戦い」
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