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「どうしよっか?」
愛実が訊ねてきた。
「そうだな、近くにホッケーあるからやるか」
両替所で、野口英世二人を硬い無機質に替える。
三人の下へ戻って、硬貨を入れようとしたところで、問題が発生した。
「チームどうするの?」
きっかけは鈴莉のこの言葉だった。
……あれ、あれあれ。皆さん、顔が怖いですよ?
「ここは平等にジャンケンだね……勿論、鈴斗君とのペアをかけて」
「異論はありません」
「よしきた」
言った凜音の顔が物凄く凛々しい。鈴莉に至っては腕をまくっている。
「ジャーンケーン――」
ポン。
愛実がグーで、鈴莉がチョキで、凜音がパー。あいこである。
「……やるね、すーちゃん、凜音ちゃん」
「まだまだ序の口だよ、あいちゃん」
「実力の一割程も出していません」
「言ってくれるね、あーいーこーで――」
しょ。
愛実がパー。鈴莉がグー。凜音がチョキ。またあいこである。
「……どう?全力出す気になった?」
「見くびらないで、あいちゃん」
「二割です」
「そう、なら出さざるを得ない状況を作るまでだね。あーいーこーで――」
しょ。
グー、グー、グー。またまたあいこである。
「私はまだいけるよ」
「あたしもね」
「三割です」
あくまでこれはジャンケンである。誰が何と言おうと、ジャンケンである。てか、皆小出しにし過ぎだろ。もったいぶるなよ、時間がもったいない。
「あいこで、しょっ」
またまたまたあいこである。
「あいこで、しょっ」
またまたたまたまあいこである。
「しょっ」
「しょっ」
「しょっ……」
…………。
さて、一体幾度その遣り取りをしただろうか。たった三人のジャンケンで、たったの一度でも勝敗が着かない確率など、きっと途方もない数になるに違いない。明らかに面倒なのでやらないが。
さすがにこれ以上無駄足を踏む訳にはいかないので、代替案を俺から提示した。
「三人対俺じゃ、ダメなのか?」
……にやり。
地雷を踏んだ気がした。
言い出しっぺである手前、引き下がる訳にもいかず、それでも今目の前の不敵なオーラを纏う三人に対してすっごくびくびくしちゃう俺は一体どうすればいいのだろうか。
あれは人間の目じゃあない。猛獣とか猛禽とか、完全に捕食者の目である。
いやこれ、エアホッケーですやん。何でそんな、ちょっとでも油断したら喉笛ひゅーひゅー言っちゃうかも、みたいな目をするか。
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