凛として黒羽

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皆の前で大見得を切ったはいいが、心中はそうもいかなかった。 黒枝がいかに理解ある少女だとしても、来るという保証はどこにもない。まだ許してくれないのなら、きっと黒枝は来ない。 だが。 同時に、手を抜く事も許されない。やるからには全力を尽くす。至れり尽くせり鈴斗君サービスセンターである。 俺だからこそ出来る事。その為の術式も完備した。手順さえ間違えなければ、完璧だ。完璧過ぎて、鈴莉あたりに仕掛けるとそのまま勢いにかこつけて貞操を奪われかねない。自信はあった。 ちょっと強引な気がしないでもないが、いつもとは違う鈴斗君をプレゼントだ。 と、深く意気込んで、俺はその足音を待った。 コンコン。 ――来た。 「黒枝、か?」 「ん」 壁越しに聞こえた短い返事。たとえ一文字だとしても、今はそれでいい。 「いいよ、入ってくれ」 黒枝が部屋に足を踏み入れた途端―― ふわり。 「ふわっ!?」 放物線を描いて、その小さな身体は俺の腕の中に収まった。 落ち着けていない様子の黒枝に話し掛ける。 「手荒な真似してごめんな?それから、約束忘れてて――ごめん」 一番最初に言いたかった事。 俺の口から出て来たのは、心からの謝罪だった。 黒枝の澄み切った瞳の前で、心ない空言は有り得ない。 「……許す」 黒枝は極めて小さな声でそう言った。 思いの外あっさり許されてしまい、肩透かしを食らった気分だ。 「でも条件がある――」 「その前に、一ついいか?」 条件を出されてしまったら、完全にタイミングを失ってしまう。ここは無理矢理にでも切り出すべきだろう。 「なに?」 「これは、贖罪――ごめんなさいの分」 以前落としたのと同じ場所に、同じ唇を落とす。 やはりと言うべきか、黒枝は驚いたようで、普段無気力そうな目を丸くして、あうあう言っている。 「で、その条件ってのは?」 「あう……性交」 「ん?」 はて、俺の聞き間違いだろうか。 「性交」 否、聞き間違いなどではなかった。可愛らしい声からは想像もつかない言葉だった。 「……いや、さすがにそれは――」 「冗談。約束の分、しっかり撫でてほしい」 「それだけでいいのか?」 さっき言ったような事は出来ないが、ある程度までなら覚悟はしていた。 今回の非は一方的に俺にあるのだから。 だがどうだろう。黒枝は、約束分だけでいいと言った。果たしてそれだけで本当にいいのだろうか。
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