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だが、柱を太くしてやれば、数十メートルの高さに足場を作る事だって可能。
同じ目線で鴉天狗と睨み合う。
叢雲を構えて、
「だあっ!」
一閃。
が、これは挨拶代わりのようなもので、当然避けられる。
俺は宙に投げ出される形になるが――
「『土遁隆衝』!」
方術で足場を作り出して着地した。
『無駄打ちしては“気”のスタミナが切れるぞ。この結界もお前のものだろう?』
「だから?相手の心配より先に、自分の心配をしな。両断されても知らねえぞ」
轟音――。
地から生え出るいくつもの砂柱が、寸分の狂いなく鴉天狗を狙う。
鴉天狗も自在に飛び回り、それらをかわしていく。
が。
「両断って言ったよな。そんなもん全部ブラフに決まってんだよこの野郎」
柱を飛び移って肉薄。勿論、身体強化のドーピング術式込みでだ。
完全にとまではいかないものの、俺の振るった叢雲は、鴉天狗の肩を捉えた。
反撃の迦楼羅炎を放とうとする鴉天狗から離れて、
「『土遁隆衝』!」
“柱の横”から突き出す土塊で、鴉天狗を土柱に叩き付けた。
その上で、遠目に様子を窺う。
何も、ない。音も光も動きも。風向の変化もない。
と思った瞬間、柱に亀裂が走り、音を立てて内部から崩れ始めた。
「そりゃないぜ、とっ、つぁん!」
足場がなくなる前に別の柱に飛び移る。
そこで目にしたのは、粉塵を纏って出て来たほぼ無傷の鴉天狗。
致命傷にはなり得ないとは思ったが、こうもダメージが皆無だと正直投げ出しそうになる。じゃあ何したらダメージ与えられるんだよ。人間だったら確実に全身がひしゃげてるレベルの衝撃だぞ、あれ。頑丈過ぎだろ。
『今のは効いたぞ』
いや、そんな風には見えなかったんだが。外傷なしにそんな事言われても、まったくもって信憑性がねえよ。
「早く楽になりたいんなら、さっさとやられてくれや」
『素直に従うと思うか?』
「いや?これっぽっちも」
でなきゃ、今頃こんな事してねえっての。何で命懸けでリアルファイトしなきゃならんのだ。
「俺たちは絶対に相容れない――黒枝が居る限りな」
『ならば、永遠に相容れないだろうな』
だからこそ。
こうして力と力をぶつけ合うしかないのだ。
「そうだ。俺たちは、力で相手をねじ伏せるより他に、解決策を知らない――」
――不器用な人間と妖怪である。
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