1371人が本棚に入れています
本棚に追加
何故だろう。妙な胸騒ぎを覚えて、私は夜中に目を覚ました。
これは、焦燥感、心配――不安。以前、鈴斗が教えてくれた感情だった。
この胸のざわつきを抑えるには、人肌しかない。鈴莉にも九紅璃にも凜音にも、そんな迷惑は掛けられない。だから鈴斗に掛けるしかない。例えば――布団に潜り込むとか。
だが勘違いしてはならない。これは単に不快な感情を抑える為であって、その他諸々のやましい等々の感情を挟んでいる訳ではない。
そう。これは致し方ない事。緊急措置だ。えまーじぇんしーえまーじぇんしーだ。
音も立てず鈴斗の部屋に侵入し、鈴斗の布団に忍び込み――気付いた。
温かい。確かに、温かい。鈴斗の匂いもする。
ほんの少し前までそこに居たような。
ほんの少し前までそこに居たという事は。
今はもう居ないという事で。
妙な胸騒ぎが、嫌な予感に変わる。
そして、そんな嫌な予感に限って百発百中だという事を、私は知っていた。
駆け足で部屋を出て、皆を起こしに行く。それこそ迷惑に他ならないだろうけど、鈴斗が絡めば迷惑などとは思わないだろう。
……現に私がそうなのだから。
まずは鈴莉。
ゆさゆさ。
「起きて、鈴莉」
ゆさゆさゆさゆさ。
「……なに、こんな遅くに」
案の定、起こされた鈴莉は不機嫌だった。
「鈴斗が居ない」
「は?それどういう事?って、何でそんな事知って――」
次。説明は後。移動しながらでも出来る。
「九紅璃。鈴斗が消えた」
「鈴斗が!?」
さすが恋する乙女、鈴斗の事となると行動が早い。
「うん。私、凜音起こしてくる」
この前居候してきた、新入りの子。押すタイプの皆とは違って、完全に引くタイプの女の子。故に油断ならない。
「凜音も起きて。鈴斗が居なくなった」
「鈴斗様が!?まさか単身、鴉天狗に……!?」
「多分」
今晩中にケリを着けるつもりなのだろう。
「何故、私を頼ってくれないのですか、鈴斗様……」
「打ちひしがれてる場合じゃない。鈴斗のところへ駆け付けるのが先決」
「……そうですよね、こんな事で落ち込んでいる場合ではありませんよね」
随分と。
気丈な少女になったものだ。
――恋は人を変える。きっと、鈴斗も同じ事を思ったに違いない。
「一応、あいちゃんにもメール送っといたよ!」
「じゃあ、行きながら話すから」
私たちは私たちなりに、私たちなりの。
さあ、儀式を始めようか――。
最初のコメントを投稿しよう!