漆黒の桎梏

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何故だろう。妙な胸騒ぎを覚えて、私は夜中に目を覚ました。 これは、焦燥感、心配――不安。以前、鈴斗が教えてくれた感情だった。 この胸のざわつきを抑えるには、人肌しかない。鈴莉にも九紅璃にも凜音にも、そんな迷惑は掛けられない。だから鈴斗に掛けるしかない。例えば――布団に潜り込むとか。 だが勘違いしてはならない。これは単に不快な感情を抑える為であって、その他諸々のやましい等々の感情を挟んでいる訳ではない。 そう。これは致し方ない事。緊急措置だ。えまーじぇんしーえまーじぇんしーだ。 音も立てず鈴斗の部屋に侵入し、鈴斗の布団に忍び込み――気付いた。 温かい。確かに、温かい。鈴斗の匂いもする。 ほんの少し前までそこに居たような。 ほんの少し前までそこに居たという事は。 今はもう居ないという事で。 妙な胸騒ぎが、嫌な予感に変わる。 そして、そんな嫌な予感に限って百発百中だという事を、私は知っていた。 駆け足で部屋を出て、皆を起こしに行く。それこそ迷惑に他ならないだろうけど、鈴斗が絡めば迷惑などとは思わないだろう。 ……現に私がそうなのだから。 まずは鈴莉。 ゆさゆさ。 「起きて、鈴莉」 ゆさゆさゆさゆさ。 「……なに、こんな遅くに」 案の定、起こされた鈴莉は不機嫌だった。 「鈴斗が居ない」 「は?それどういう事?って、何でそんな事知って――」 次。説明は後。移動しながらでも出来る。 「九紅璃。鈴斗が消えた」 「鈴斗が!?」 さすが恋する乙女、鈴斗の事となると行動が早い。 「うん。私、凜音起こしてくる」 この前居候してきた、新入りの子。押すタイプの皆とは違って、完全に引くタイプの女の子。故に油断ならない。 「凜音も起きて。鈴斗が居なくなった」 「鈴斗様が!?まさか単身、鴉天狗に……!?」 「多分」 今晩中にケリを着けるつもりなのだろう。 「何故、私を頼ってくれないのですか、鈴斗様……」 「打ちひしがれてる場合じゃない。鈴斗のところへ駆け付けるのが先決」 「……そうですよね、こんな事で落ち込んでいる場合ではありませんよね」 随分と。 気丈な少女になったものだ。 ――恋は人を変える。きっと、鈴斗も同じ事を思ったに違いない。 「一応、あいちゃんにもメール送っといたよ!」 「じゃあ、行きながら話すから」 私たちは私たちなりに、私たちなりの。 さあ、儀式を始めようか――。
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