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丑三つ時。そんな夜中を走る影が二つ。
「お兄ちゃん、ターゲットは?」
少女が、容姿に似つかわしい声で訊ねる。
「ここから南西に二百メートルだ」
少年はそれに答える。
今、この街は二人だけ。他は皆、街の内界だ。
月は二人を照らし、夜風は二人を撫でる。だが、二人にはそんな情趣を味わっている余裕など無かった。
「あ、お兄ちゃん、見えたよ!」
少女はとある方向を指差す。
「じゃあ鈴莉は早速向かってくれ。結界は俺の方でどうにかする」
「うん。一旦じゃあね、だね」
それから彼らは二手に分かれて走り続ける。
鈴莉と呼ばれた少女はターゲットへ。鈴莉と呼んだ少年は街を囲うように。
「とりあえず、動かないでね?」
ターゲットと接触した鈴莉は、己が懐から紙切れ数枚を取り出し、気を込める。
すると紙切れは紐状に形を変え、ターゲットを束縛した。
「鈴莉、こっちは準備出来たぞ」
後方からそんな声が聞こえる。
「うん。ありがとね。じゃあ行くよ!」
その声と共に、無数の珠が宙を舞う。それは最初、不規則に。でもだんだん規則的に。最後は統一された動きへと変わっていった。
「我、古の盟約に従い、魔を祓う者なり。あやかし、乱れて清きところ無し。禊ぎてそれを浄化せよ――」
静寂が支配する夜の街で、不思議に煌めく珠が一つ。
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