そうだ。きっとこれは夢なんだ。

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「なーんでもなーい」 今度は、ふてくされたように、まるで聞こえよがし然とした語調で口にした。 分からない奴だなあ。 まあ、とは言え、鈴莉も年頃の女の子だ。裸で家の中歩き回るけど。 何か、聞かれたくない悩みでもあるのかもしれない。 自分から話せない手前、それが更に苛立つような。 「悩んでんだったら、いつでも言えよ?聞くくらいの事は出来るぞ?」 自分がはけ口になったらどうだろうか、という台詞だったのだが、 「……この鈍感っ」 鈴莉は、怒りを増したようだった。何で。 まあ、そんな調子で、俺は三人に引きずり回されるのだった。 とは言え、三人のいつもとは違う姿が拝めるのだから、役得というものだろう。 さすがに。 ランジェリーショップだけは必死で抵抗した。 三人の魔手から、死に物狂いで抜け出した。 だって、それは死ねる。主に、俺の社会的地位が。 実力行使で、お引き取り願った訳だ。 そのくらいの分別はあるかと思われたが、意外とそうでもないらしい。或いは、確信犯か。 「鈴斗ー、見て見てー」 更に意外だったのが、九紅璃。 着痩せするタイプなのだろう、ゆるふわファッションに身を包んだ九紅璃は、ある部位が否応なしに強調されていた。 普段がタイトな服を着ているだけに、そのギャップもひとしおだった。 うん、目に悪い。 「鈴斗ー?」 「ん?あ、ああ、似合ってるぞ」 勿論、似合っているのは確かである。 それが、TPOを弁えているかは別にして。 「そう?良かったー」 にこーっと、満面の笑み。普通にしてりゃ、ずば抜けて可愛い女の子なんだけどなあ。 あの長い髪は目立つし。人目を引くのは間違いない。 ちなみに、耳や尻尾は収納可能なのだとか。オプションなのかそれは。脱着式なのかそれは。いや、さすがに脱着式はないか。 その言葉の通り、今、九紅璃の耳も尻尾も出ていない。出ていたとしても、コスプレで済まされそうなものだが。 人前でぴょこぴょこ動かしたら、それはもう怪異的な目で見られるので、しまっているのだ。 「えへへー。どう?似合ってる?」 ガバッと正面から抱き付いて、そう訊ねてきたのは鈴莉。まだ気の早いサマードレスに身を包んでいる。 健康的な肩をむき出しにして、上目遣いに俺を見る。 「意外に似合ってるな、それ」 「何か、裏のある言い方だね」 と、鈴莉は口を尖らせた。
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