そうだ。きっとこれは夢なんだ。

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「まずは入学おめでとう。私は、このクラスの担任を務める沢渡遥(さわたり・はるか)です。教師務めは拙い新人だけど、一年間よろしくね」 そう言って、フッと微笑んだ。 なんとなくこちらを見ていた――ちらちらと盗み見るように――のは、多分、俺の気の所為だろう。 肩甲骨辺りまでの長さの、先端がウェーブの掛かったセミロング。フォーマルとカジュアルを両立したようなファッションに、それを否応なしに背景へ押しのける美貌。 名前と見た目から、女性だと断定出来る。 確かに綺麗なのだが、何かが違う気がした。 なんかこう、妖しい美貌、というか、幻術を魅せられているかのような違和感。 俺のそんな疑問は、俺に向けられた声に掻き消された。 「神酒島君?」 「え?」 「自己紹介。神酒島君の番よ。してくれるかしら」 ――沢渡遥。よく分からない人だ。 立場上、先生と生徒なので、沢渡先生と呼ぶ事にする。 「あ、はい。名前は神酒島鈴斗。趣味は――」 どうしようか。これと言った趣味なんて、俺には無かった。 定形化された通りに続けたのがまずかったか。 「占い、かな。一年間よろしく」 咄嗟に出たのはその単語。 事情を知っている愛美は、特に表情を崩さなかったが、周りは若干ざわめいている。 まあ、変に動揺するよりはマシかと、ポジティブに考える事にした。 趣味は占い。そう言われると、確かにおかしなやつだった。 いきなり先行きが不安になってしまった。 「鈴斗だったか?」 そんな俺に、前の席から声が掛かる。 「確か、真宮……」 「真宮剛(まみや・つよし)。まあ好きに呼んでくれ。それよりお前、占いやるって言ったよな?」 初対面にしては馴れ馴れしい気がしなくはないが、変に萎縮されるよかマシだ。 「ああ。うち、仏教だから、出来れば風水とか易とかそういうので頼む。タロットは苦手だ」 「手相はいけるか?」 手の平を向け、剛は言った。 「自信はないけど――てか、最近の手相はあまり参考にならないんだが、分かった。見てみる。何を見てほしい?」 「明日何が起こるか、ってのならすぐ当たり外れが分かるだろ?」 確かに。そうなのだが。
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