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静かな廊下を歩いて職員室に到着。
ドアの前に立っている人はおらず、ただ何人かの先生が出入りしているだけだった。
ということは、さっきの子はもう中ってことか。
そしてこれは俺の推察というか、もう勘なんだけど。
きっとさっきの子が転校生だろう。
いや、確かにさっきもそうかなーとは思ったけど、これはもう確実だろ。
だってドアの隙間から見えてるんだもの。
俺はドアを二回ノックし、開いてから失礼しますと言って中に入る。
後ろ手でドアを閉め、担任の先生の近くへ。
「突然だが神名沢。今日から我がクラスの仲間となる朝川くんだ。仲良くしてやってくれ」
初老、柔らかな物腰、ふくよかな体型。
教員の中では生徒からの評判も良く、部活動ではその独特のスタンスのせいか成績が良い。
そんな特徴的なんだか凡人なんだかよくわからない先生は、俺にそんな紹介をしてきた。
「えっと……俺でいいんスか? 他にもほら、美智留とか適任なのがいたと思うんですけど……」
とりあえず、建前を述べる。
本音としては「面倒だけど頑張ります」なのだが、そこまでガツガツしすぎるのも気持ち悪いだろう。
「席順でもお前の隣になるんだぞ? 席の近い人間の方が、それこそ早く打ち解けていけるだろう」
なんて言うと立ち上がり、さっきから隣で一言も話さなかった女子生徒の背を押す。
さっきの子だな。
「改めて紹介しよう。朝川 雅くん、夏休み中に親の仕事の都合でこっちに越してきたんだ。三年の夏だというのに大変だろうから、落ち着いている神名沢が面倒を見てやりなさい」
それってつまり、俺が受験に対して悩みを抱いていないとでも言いたいんですかな?
まあ、本当に大して悩んでないから言い返せないんだけど。
「あー……はい、わかりました。それっぽくなーなーにやります」
それっぽく、なーなーに。
俺の心情であり、ほぼ全ての事柄において前提としている言葉だ。
だからテストも平均点前後だったり、赤点よりも少し上くらい。
成績だって3とか4がつらつらっと並んでるだけで、5なんて滅多に取れないし2や1も取らない。
それくらい普通で微妙で、中途半端な男である。
「うんうん。それじゃあ、早速教室に行こうか」
先生はそう言って俺達を先導する。
俺は小さく、ぺこりと頭を下げた朝川さんに対して同じような会釈を返し、先生の後に続いた。
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