――出会う、廊下にて――

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俺は後手のトビラから教室に入る。 そして先生と朝川さんは前のトビラから。 「はーい、静かにー」 手をパンパンッと叩いた先生の言葉。 黙って席に着いた俺以外の生徒も、先生の言葉で順々に席に戻っていく。 「えぇー、夏休みも明けて本格的な受験シーズンになったわけだが――――」 微妙に長ったるい言葉の後に、先生は朝川さんを教室に招き入れる。 「それじゃあ、挨拶」 促された朝川さんは、人前に立つことに慣れていないのかもじもじと手を動かした後に、静かに口を開いた。 「あっ……朝川、雅ですっ……その……よ、よろしく、お願いします……」 元々恥ずかしがりやなのか、それとも新しい場所だからと極端に緊張しているのか。 どちらにせよ思うことは一つ。 「……お前とは大違いなまでに乙女らしいな」 「は?」 斜め前の席に座る美智留にそんなことを言うと、殺意のこもった視線を送り返される。 あっ、こりゃあ死ぬぞ俺。 「はい、皆拍手」 クラス一同が拍手する中、朝川さんはそれすらも恥ずかしそうにして顔を俯かせていた。 それに対しても思うことは一つ。 「お前とは大違――――」 「殴るわよ」 言い切る前に脅されてしまった。 まったく、なんて恐ろしい女なんだろう。 「それじゃあ、席はあそこだ。神名沢の隣」 窓際の最後列の俺の隣は空席。 であるならば、当然彼女が座ることになる。 「……それで呼び出されてたのね」 「ああ、世話係的な?」 そんな感じのやつ。 そう答えると、何故だか知らないが美智留は不機嫌そうな顔をして前を向いてしまった。 ……お、怒らせるようなことでもしたかな、俺。
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