――出会う、廊下にて――

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朝川さんが俺の隣に座った後、ホームルームは着々と進んだ。 夏休みの課題提出に、先生から明日の授業についての報告。 初日に授業が無いだけマシっちゃあマシだが、やっぱり面倒だ。 「あー、朝川さんって教科書揃ってるの?」 「は、はいっ……」 怯えた様子で返事をする彼女。 ……怖がられるようなことはしてないと思うんですけど、こうも露骨に避けられると傷つく。 「え、えっと……まだ、届いてないのも、幾つかあるみたいです……」 「そっか、じゃあその授業の時になったら言ってね」 隣だからな、見せねばなるまい。 しかしそんな俺の普通極まりない行為に対して、快く思わない人物が一人。 美智留だ。 「……なーんか、妙にキャラ作ってない、匠?」 「んなことねぇよ。俺は普段からこんな感じだっつの」 「口調とか、なんかアタシと話す時よりも優しいし……」 ……今度は落ち込んだ。 なんだ、なんなんだ一体。 美智留の感情がまったく読めない! 「……か、勘違いだって。っていうかお前と話す時が一番素の俺だって、な?」 「……そ、そう? 本当に? 嘘じゃない?」 不安そうな目で何度も問うてくる。 いやいやいやいや、そんな本気で心配そうにしないでも大丈夫だってのに。 「嘘じゃねぇよ」 「……そっか」 そう言ったかと思うと、美智留はまた、何故だかわからないが俺を睨みつける。 「べ、別に嬉しくはないわよ! ただ、あ、アンタがアタシしかホントの友達いないんだなーって、思っただけ!」 「失礼だなお前!」 確かに男の友達は多いわけじゃないけど! かと言って美智留しかいないわけじゃねぇよ! 「何よ! 課題だって頼れるのはアタシしかいないくせに!」 「お前だって理科の課題見せてって泣きついてきたじゃんかよ!」 「なっ、泣きついてなんかないわよバカ! バーカバーカ!」 「んだとぉ!」 「何よぉ!」 熾烈な争いは続き、最終的には激昂した美智留の手によって……。 「ばかぁー!」 「ごっ……!」 俺が殴り飛ばされる。 それにしても美智留の拳を食らっても生きてる俺って、案外頑丈な体をしているんじゃなかろうか。
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