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大丈夫じゃ、大丈夫じゃ、とひたすらに二人は言葉をかけ続けた結果、ようやく天朱には笑顔が戻ってきた。
天朱は雫を片手の甲で拭うと、ぺこり、とお辞儀をして頬を緩めた。
はっ、と二人は息を呑んだ。
その朱い光に照らされた天朱の姿は、美しかった。それは氷のような冷たいものでも、桜のような儚いものでもない。しなやかな両手で、母の腕に抱かれるような感覚が二人を包んだ。時間が、止まった。風がやみ、薄が項垂れ、二人は母の愛に酔っていた。
いつまでもこの時が続くような、そんな気がしていた。
「…………ごめんね……。また……泣いちゃって……」
ぼう、としていたふたりは、天朱の言葉で、我に返る。そうだ、城に帰らなくては。
「い、良いのじゃぞ、天朱。それよりも、とっとと帰って母様に茶を入れて差し上げるのじゃ」
「その為に、草を摘みに参ったのじゃからな。母様は天朱の入れる茶が大好きなのじゃ」
嬉しそうに、聖母のように微笑む天朱。
それぞれに、二人は天朱の手を優しく取る。ぬくもりを湛えた手の感触に寧々と樹々はどこか懐かしい、と感じながら、それ以上は考えなかった。
夕陽に見送られるように、三人は寄り添いながら、金色の大地を後にした。
そこには、ただ三本の道が残され、風の律動と共にゆらゆらと揺れていた。
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