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飲み込まざるを得なかった。
樹々、そして寧々が見上げたその先には――天朱の泣き顔があった。
正確にはまだ泣いてはいない。だが、その両目は涙を湛えて今にも零れおちそうだ。
天朱は口元をへの字に歪め、籠を持った両手を震わせ、水を溢れさせまいと必死に耐えている。
二人は一瞬にして身を強張らせた。
しまった、と同時に二人の脳裏に言葉が浮ぶ。
そうだ、天朱は――これほどにまでにないほどの――泣き虫だった。
天朱は口元をへの字に歪め、籠を持った両手を震わせ、水を溢れさせまいと必死に耐えている。
だが、それも限界のように思えた。
「……っく……だって…………だって……」
口から零れ落ちた言葉は涙の代わりのようだ。だが、一切反論する言葉がないのか、それ以上続けることはできず、ただ同じ言葉を繰り返す。
「な、泣くな、天朱!」
慌てて寧々と樹々が天朱の慰めに入った。
「そ、そうじゃ。何もお前のことが嫌いだということではないのじゃ」
「……えぐっ…………でも……私…………何もできなくてっ……っく……、嫌わっ……れても…………しかたな…………っ……」
「そんなことはないぞ、天朱! き、樹々の言う通りじゃよ。お前のことを好いておるからこんなことが言えるのじゃ!」
「そうじゃ! 寧々もわしも天朱のことが大好きじゃぞ!」
そうじゃそうじゃ、と必死になって寧々と樹々は天朱に声をかける。
こうなってしまうと、もう二人はこうする他ない。この二人はからかうことは好きだが、泣かれることは苦手なのである。
特に天朱の顔が歪むのは、やけに心の奥に刃を突きたてられるような気分になる。
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