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「見た目だけで疑うのは失礼よ」
とたしなめたものの、亜希子もそのホームレスを快く思っていなかった。
不衛生だし、目付きも気になる。
通りや公園で遊んでいる小さな子供たちをじっと見つめていることがあるのだ。
見たところまだ30前後のようで、若いだけに余計に気味が悪い。
「ほかにいないよ、こんなひどいことするやつ」
祐輔は下唇を突き出す。
「でも、ひどい話よね。まだ新しいのに」
「そうだよ、この間のクリスマスに買ってもらったばかりなのに。これからサイクルショップに持っていくんだけど、
多分直らないんじゃないかなぁ。
チューブもタイヤも交換しなきゃダメっぽい」
最近の子は自転車屋とは言わないのだろうかと亜希子は苦笑する。
「じゃあ、僕、行きます。」
祐輔は軽くお辞儀し、自転車を押しはじめた。
亜希子は自転車の前籠に手を突っ込み、買い物袋の脇からトートバッグをとりあげた。
ところが今度は鍵が見つからない。
玄関向かいながらバッグの中を引っかけ回すが、
ドアの前に達してもまだ見つからない。
バッグを逆さまにして中身を足元にぶちまけ、それでやっとキーホルダーを発見できた。
電話がなり止んだ。
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