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「オルクス」
「なンだい? ハーディス」
振り返ると、いつも透き通るような前髪をかき分けて涼しそうに立っている。
いつも背中にある安心感。
ハーディスは満足そうに頬を緩めながら、再び前を向く。
「その喋り方をやめろ」
いつも人の神経を逆撫でするような、気持ち悪い喋り方。
オルクスは自由奔放というより、自由勝手の塊で、川の流れのように掴みどころがない。
動く度に長い綺麗な水色の髪が揺れる。
だが、戦友としては信頼に値した。
「ハーディスが望むなら」
とか言いながら、次の瞬間には忘れている。
わざとやっているのか、天然なのか。勿論、前者である確率が殆どだろう。
ハーディスとオルクスは薄暗い森の中を歩いていた。
この方向を進んで行けば、目的の要塞に着くだろう。
そこに工作を仕掛けて、緊張状態にある両国を戦争に巻き込んでしまおう、という魂胆だ。死神には、魂が必要だ。
生きる為に、死神として生きる為には人間の魂が一番だった。
ハーディスに特に迷いは無かった。
人間に情が無く、この星に生きる、動物の一種。ただそれだけ。
人間に憎悪が無い、と言えばウソになるが、それとこれとはまた別だと思い始めていた。
それよりもハーディスは気分が良かった。心地がよかったのだ。
この偶然再会した同期の死神は、危険な思考の持ち主だが、彼は確かな力を持っていた。
『仲間』などといった生温いものではなく、最終目標が一緒なだけで行動を共にしているだけだった。
戦闘においてもオルクスには気を使う必要はない。仕事が早く片付く。
ただ、よくわからない行動をしているのが目に付いた。
彼の性格を考えるのであれば、深く考える必要性は感じられない。
「あと少しだな」
「ハーディス、疲れた。今日は休もうよ」
ハーディスの後ろから気の抜けたやる気の無い声が聞こえる。
感情の起伏が激しい。これも彼の欠点の一つだ、とハーディスは記憶する。
「お前は休め。俺は行く」
「ほンと、厳しいなぁ。ハーディスー。そんなんじゃ、みンなから嫌われちゃうよー」
ハーディスが嫌そうに振り向き、歩みを止める。
彼が振り向くと、オルクスは満足そうに微笑んだ。
「はい、決定」
ただ眼は笑ってはいない。これはいつでも背筋がゾクリとする。
正しく『死神』。そんな眼をオルクスは持っていた。
ハーディスは不満げに腰を地面に下ろす。
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