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「ちは…る…?」
千春が睨み付けている先を見ようと、首をまわす私を千春は凄い勢いで阻止し、ドンッ!!と引き締まった胸の中に収められた。
「顔。映すな」
低い地鳴りのような声を出した千春に驚いている私を隠すように、引き寄せる腕の力を強めた千春は、
「千秋の顔は映すな!」
更に大きな声を上げた。
「俺は、いくらでも撮っていい。千秋だけは駄目だ。分かったな?」
いつになく厳しい千春の口調に、私は気付いた。
このざわめきは…。
この光達は…。
このパシャパシャという音達は…。
記者達だと……。
「はいはい。すみません。通してください」
そんな声が聞こえ、
「また改めて会見を開きますので、今日の所はお引取りください」
強引に式場の扉を閉めようとする気配がした。
記者達のブーイングも、慣れた様子で適当にあしらいながら、パタンと扉が閉まる音がした。
この声…。
聞き覚えが……。
扉が閉まった事で、私の身体を包む千春の腕の力が弱まり、そっと顔を後ろに向けた。
「千秋ちゃん。久しぶりだね」
そう言って、微笑むその人は、静かに私達の方へと近付いて来た。
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